●講義では、前半に自分で体験することの大切さについてお話を伺いました。
なぜ学校で理科(科学)を勉強するのか。なぜ学ぶのかということはとても大事だし、学びというのは、学校だけでなく卒業してからも一生続いていくものです。学ぶことの意味が分からないと苦痛ですが、学ぶことに意味をもたせられるとたいへんおもしろいものです。 日本では、1990年前後に理科離れ、理科嫌いが増え、科学は危機的な状況であると言われた時代がありました。米村でんじろうさんらが科学実験をエンターテインメントとして広めてくれ、今の小学生は理科、特に実験が大好きです。
「科学に騙される」という考え方があります。その一例として、水に「ありがとう」と声を掛けて凍らすと綺麗な六角形の結晶になり、汚い言葉を掛けるといびつな結晶になって凍るとする書籍がブームになったことがありました。写真付きで小学校の道徳などの授業で使われることが多くありました。水はH2Oで分子量18、沸点100℃ 融点0℃ 水蒸気⇔水⇔氷 と状態変化することを中学校で習います。この知識をしっかり使えば、この本の内容が正確ではないことは判断できます。同じように、「身体に有害な活性酸素を効率よく除去する」という名目でブームとなった「水素水」も科学的には正確ではない商品がブームとなった例と言えます。水素は水に溶けないことから、中学校程度の知識があれば、このような嘘は見抜くことができます。ですから、よく目にする磁気ネックレスの広告や健康食品の広告には「効く」とは絶対に書かれていません。 このように理科という教科は、生きていくために大切な事柄をたくさん勉強しているのです。大事なのは知識ではなく、考える力や判断する力であり、今の学校教育もそれを目標としています。ですから子どもたちに体験をたくさんさせて、考えさせようとしています。知識はすぐに調べられますが、思考力・判断力こそ、これから生きていく上で大事な力だと思います。
サイエンス・コミュニケーションが私の研究分野の一つです。サイエンスショーや新聞の科学欄の特集記事を書くことにも力を入れています。「自分でやってみること」から「考える力」が身に付くのです。
●講座の後半には、身近なものを利用した科学実験として、次のようなものを実際に行ったり、紹介いただいたりしました。
①重心とつり合いの実験 紙を斜めに切ったハガキを使い、バランスをとり鉛筆を浮いたように固定しました。
②構造によって水をはじく様子を見る 液体をはじく蓮の葉の仕組みを応用したヨーグルトの蓋を観察しました。この仕組みを応用すると、水中に空気の泡がたまったようになります。大学生が発見したその不思議な画像を紹介いただきました。
③水中にシャボン玉を作る実験 ストローを用い、滴を数滴落とすことで、空中ではなくシャボン液の中に空気の玉を作りました。
④マグヌスコップの実験 紙コップと輪ゴムを使って、物体が回転することで空中で進む方向が決まることを確認しました。
⑤長周期振動の実験(紹介) 厚紙とクリアファイルを切ったものを利用して、長短二つの短冊を揺らし、地震の大きな揺れと小さな揺れの伝わり方や建物への影響が違うことが体験できる実験を紹介いただきました。
実験を通じ、科学の面白さを感じるだけでなく、何事も無意識に受け入れず、立ち止まり考えてみることの大切さを感じることのできる時間となりました。
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